2012-10-01から1ヶ月間の記事一覧

『詩 詩人の役割』

詩人の役割は読者に日常から離れた世界へと、いざなうことだ。 君とぼくとの間柄のなかで。 詩人は散歩する。 夢想して絵を創りだすためだ。 耳になじむ言葉を撰んで、 ぼくの世界が君の世界とつながっていくことを、 証明するために詩があってもよい。 あふ…

『詩 ワルツ』

バレエのワルツはくるくると回る。 音楽の展開と同じように。 君はどこでその踊りを覚えたのだろうか。 私は闇のなかにいる。 しかし、闇は希望の塊だ。 今日、私は闇の中から這い出ることにした。 希望のなかにいつまでもどっぷりとつかっているわけにはい…

『臨床哲学小説 ある作家の物語2』

ハンスの音楽は宗教的でかなり前衛的な色彩の強い作品が多かった。ギンべラートはその前衛的なところに魅かれていた。ギンべラートは小説を書くときにモレスキンのノートにショートショートを書いていた。書くときは2Bのえんぴつを使うというこだわりがあっ…

『臨床哲学小説 ある作曲家の物語』

貴光は作曲家を主人公とした小説を書いていた。それはグスタフ・マーラーの生涯をモデルにした物語で、主人公の名前はハンスといった。ハンスは感受性が豊かな少年でピアノを習いにいくも自然のなかから作曲するすべを学びとっていった。 夢のなかでハンスは…

『臨床哲学小説 深い森のなかで』

小説家の貴光は小説の取材のために「深い森」と呼ばれている森へ行った。深い森はかなり険しい森だった。夜に出発したので、あたりは静寂と暗闇とに包まれていた。その「深い森」には工藤精一郎が小屋を建てて住んでいた。工藤は小説家だった。小屋の前には…

『臨床哲学小説 黒い森』

私は黒い森に小屋を建てて住んでいる。夜になると周りは暗闇の世界につつまれており、眼をつむっても開いても同じくらいの暗さである。そこで私は妻と一緒に小説を細々と書いていた。妻は週末になると街のほうへ降りていき、ヨガに行って身体を鍛えていた。 …

『臨床哲学小説 或る作家と私』

小説家の山田貴光は古典ギリシアの世界が好きであった。貴光はホメーロスの書いた『オデュッセイア』を暗唱することができたのである。 東都大学で古典ギリシア語を教えていた山田貴光はまだ24歳の最年少教授であった。 私は貴光のことを羨ましく思っていた…

『臨床哲学小説 貴光とその家族』

貴光は小説を書いていた。ロックの音楽ガンガンに流しながら。貴光の書く小説は教養小説がほとんどだった。 貴光には妙子という女友だちがいた。妙子も小説を書いていたが、詩を書くという点で貴光とは一線を画していた。そして、妙子は童話を書き、沼津市立…

『臨床哲学エッセー 無意識の鉱脈を探して』

私は無意識の深いところを描く小説を書いている。それらの小説は深夜になってから書き始める。そのうちそれらの作品をヒントに「沼津の或る一家の物語」としてまとめることにする。フランス文学のマルセル・プルーストが著わした『失われた時を求めて』への…

『臨床哲学小説 夜の物語』

冴子は京都大学大学院でフランス文学を学んでいた。夜になると冴子は小説を書いていた。読んだ本はロマン・ロランの『ジャン・クリストフ』やマルセル・プルーストの『失われた時を求めて』だった。これらの作品にかなりの影響を受けている。また、冴子はハ…

『臨床哲学小説 あいだの国』

私はあいだの国に棲んでいた。そこでは皆が煌びやかで仕方がなかった。祭りの前の踊りが催されており、私もその舞踊に参加させていただくことにした。そこにいる長老はフランス語とドイツ語と古典コイネーギリシア語を巧みに操ることができた。しかし、私は…

『臨床哲学小説 深い河のほとりで』

沼津の或る深い河のほとりで、私は小屋を建てて住んでいた。私は純文学の小説のために詩も書いていた。私は詩を書くことのほうが小説を書くことよりも上手にできた。 高校時代から「自分の世界」と周りの「世界」とのあいだに悩み、考えていた。そのために私…

『詩 物語を書く』

私は物語を書いている 物語を書いている私は生命の連なりのなかにいる この物語はいったいだれによまれるのだろうか 時間の流れのなかでいったいだれに読まれるのだろうか 私は一族の物語を書き続けていきたい ワルツの単調で美しい流れのなかで ヒントのな…

『詩 探検』

私が探しているものはここにはないもの どうやって探していけばよいのかわからないもの 自然によってしか教わることができない 他者から自己へと伝承されていく 目では見えないもの 言葉では決して伝わらない 言い表すことができない 数式によってさえも表す…

『臨床哲学小説 静かな時を求めて』

貴光は詩を書いていた。深くしみ込む詩である。書くことが作業にならないように注意しながら。貴光は本を読むことが好きであった。それは幼少期にまでさかのぼる。叔父が体操の研究者であったために“刷り込み”によって、貴光は本が好きになった。もちろん貴…

『詩 道を探して』

私は道を探して歩いている 誰も見たことのない道を 目的もわからず歩いている 音楽を聴きながら スケッチ・ブックに詩を書いて 何を書くこともわかっていない 風の音が流れてきた 乙女が通る香水のあまい香りが漂ふ 私は道を探している いくら戦ってもつぎの…

『詩 静かな時間』

私はいつも静かな時間を探している それはいつも無意識を深く掘り下げたなかの時間なのだ 君は私のことをわかってくれるだろうか 十億光年離れた所からその時間を探している その静かな時間は深い時間 深海へダイブするような時間 その静かな時間はだれにも…

『臨床哲学小説 青の時代』

男の名は伊藤貴光と言った。貴光は小説を書くことに一命を掛けていた。貴光は大谷大学文学部哲学科に入学したが、「うつ病」と「軽い統合失調症」のために大谷大学を休学せざるを得ない状況になってしまった。貴光には伊藤正男という名の叔父がおり、高等学…

『臨床哲学エッセー 小説を書くことを頼まれて』

私は今は亡き井上靖先生に沼津の或る一家についての物語を書くように頼まれた。大変なことを頼まれた、と思った。私はすぐに『しろばんば』を原稿用紙に書き写すことにした。 私の「内なる世界」が「世界」とつながる瞬間だった。どう書いて良いのかわからず…