『臨床哲学小説 青の時代』

 男の名は伊藤貴光と言った。貴光は小説を書くことに一命を掛けていた。貴光は大谷大学文学部哲学科に入学したが、「うつ病」と「軽い統合失調症」のために大谷大学を休学せざるを得ない状況になってしまった。貴光には伊藤正男という名の叔父がおり、高等学校で体育の教師をやっていた。貴光は叔父のことを“おじちゃん、おじちゃん”と呼んでいた。
 貴光はアルバイトもせず、ひたすら文学に身を投じていた。書いた原稿はブログに掲載した後、貴光の机のなかに大切にしまっておかれていた。書く時間は大抵、深夜と決まっていた。
 これから家族のことを書いて文学賞に応募しようと考えている。ノートに細かいプロットを書いていき、それを原稿に起こしていくのである。
 貴光は現在、家に「引きこもって」井上靖先生が著わした『しろばんば』を書き写している。長編小説なのでじっくりと書き写していきたい。
 祖母は認知症になってしまい、曜日の感覚がおぼつかない状態である。
「今日は何曜日だっけ?」
と5分おきに訊いてくる。
 貴光は折り合いをつけながら自分の病気と向き合っているが、祖母には自覚がないらしく、そこのところが貴光が困っているところでもある。
 母は吝嗇な性格でなおかつ世間知らずである。貴光はその母の性格に悩まされている。
貴光はMr.Childrenを好きではないが、母は大ファンであり毎日聴かされてしまうので弱ってしまう。
 貴光は音楽が好きでクラシックならマーラーやバッハ、J-POPなら鬼束ちひろ一青窈が、ロックならニール・ヤングボブ・ディランが好きであった。
 今日はなにを書こうか悩んだが、素直な気持ちで書いていると上手くいくことに気がついた。文学賞に送る原稿は明日から書くことにする。