『臨床哲学エッセー 小説を書くことを頼まれて』

 私は今は亡き井上靖先生に沼津の或る一家についての物語を書くように頼まれた。大変なことを頼まれた、と思った。私はすぐに『しろばんば』を原稿用紙に書き写すことにした。
 私の「内なる世界」が「世界」とつながる瞬間だった。どう書いて良いのかわからず、閉口してしまったが、シナリオ・ノートに人物の細かい描写を書きためていった。私はコミュニケーションが苦手なので作品と対話することで「世界」と折り合いをつけてきた。
 小説の周辺を書くことによって、小説をよりきわだたせる試みは有益なはずである。書く内容は私の幼少期から青年期までの事であり創作も多少混じっている。産みの苦しみは激しいものがある。私がこの文章を書いている時でも、色々なことが浮かんできて仕方がない。文学賞にまだ書かれていない原稿を書こうと思った。文学賞に送る原稿は家庭のこと、家族のことを題材にした作品で大切に書き進めていきたい。
 「統合失調症」に罹患すると不眠や妄想に苦しめられる。私はさいわい「うつ病」の症状が強く現れていないが、物事を論理的に話すことが苦手でそのために苦労したことがいくつもある。
 それでも、文筆活動ができることに感謝している。私の家系は血が濃い。山形県出身の祖母と沼津生まれの私と東京生まれの母の三人暮らしで生活を営んでいる。
 文章を書くときはなるべく土着性を出すことにした。そこを抜かすと何が書いてあるのかわからない文章になってしまうためである。
 私はいずれ本を二冊出したら日本ペン・クラブの会員になりたいということを目標にしている。その目標は20年後になるかもしれない。
 天国にいる井上靖先生に恥じることのない繊細でのびのびした小説を書きはじめることにする。そのあいだは原稿用紙三枚程度のエッセーや詩を毎日書き続けていくことにする。