『手記 自然学を求めて』その5

私は統合失調症を抱えていた。思考の乱れがあるので一貫性を伴った行動ができない。陸上競技でもやり続けることができなかった。そのために理論物理学の勉強をはじめようと思った。K先生や正孝先生にささえられながら。ファインマン物理学や量子力学の教科書が実家に存在したのでありがたかった。こえるべきハードルの設定が高すぎることはいつものことだ。

 私はいつも午後2時になるとウォーキングにでかけることにしている。30分間のウォーキングだ。愛犬の散歩は苦手でいつも母に任せてしまう。途中で引っ張られるのが嫌なのだ。運動というものはこれくらいしかやっていない。ウォーキングをしているときはボイスレコーダーに吹き込んだ本を聴きながら歩いている。しかし、その内容が解っているのかと問われると口ごもってしかない。

 おばあちゃんは差し入れに量子力学の本を欲しがった。朝永振一郎の『量子力学Ⅰ』とⅡを貸した。新しいことを覚えることが苦手なはずなのに理論物理学ことは事細かに覚えることができた。そんな不可思議な日常をおくっていた。