『詩 詩を欲する者たちへ』

世界のどこかで詩を欲している者たちがいる
それは海の中へ潜っていくようなものだ
月の光のなかで我々は詩を欲している
「ひきこもり」の哀歌なのだ。
遠くへ行かなくても月の光の面影はある
カマイタチにひっかかれないように気をつけて
シンガー・ソングライターは今日もギターを弾き続ける
君を魂の奥底から救い出すために
大きな黒い森にまよったとしても大丈夫
リズムとメロディーが君を救ってくれるから

少年たちは都会を目指す
きらびやかな世界を目指して
うちひしがれたことがあっても気にはしないさ
はるか彼方から能の謡が聴こえてくる
私とダンスを踊ってくれませんか
少しでいいので
苦しいことを忘れて
妖精たちはバレエの支度をしはじめた
私は彼女とワルツを踊った
沼津のしろばんばが天空に舞い上がっていた
私の中には懊悩することが渦巻いていたがすぐになくなっていった
私は深夜に音を澄まして言葉をたたみかけていく
或る人に「詩でテッペンを目指さないか」と言われたことがある
私は詩で飯が食べられるとは思ってもみなかったのでその考えを頭から振り払った
ラジオをつけてみるとワルツの音楽が鳴っていた
私は長い曲を聴き終わると出来そこないの詩を書きはじめた
鬱から抜け出すために私は詩を書いている
時間がないという切迫感にさいなまれながら
原稿用紙に万年筆でカリカリと書いている。
夜の明けない夜はないと信じて書き続けている
私はカマイタチになって書いている
ペンによって革命をおこすのだ
どん底からはい上がるために
カマイタチは宇宙からやってきた
何億光年も遠いところからだ。
憂鬱から脱出するために私は書きつづける
街に入っても高卒、大学休学ということはゆるぎない事実だ
君にもいるだろうか「内なるカマイタチ」は
私の青いインクは血でもありシャンペンでもある
青年の悩みは泉の如くつきない
説明ではなくむしろそれは直観にあたる身体作用なのだ
詩を書くことは自らの血を絞り出すことなのだ