『Kの物語』⑩ 

私は映画監督になりたいと考えていた。親鸞の生きざまを映画化するのだ。そのために私は吉川英治の『親鸞』を原稿用紙に万年筆で書き写している。そして、『Kの物語』は私とKとの魂の遍歴を描いている。映画監督になりたいと思った理由は、原田眞人監督作品の『わが母の記』と劇場版『るろうに剣心』を劇場で観たためである。まず、手始めに吉川英治の『親鸞』をすべて書き写してから脚本を書くことにする。ロケ地は沼津と京都でおこなう。次に私は絵コンテの練習のために『バガボンド』や『るろうに剣心』のマンガを題材にしてもう絵の勉強をしている。そして、シェイクスピアの作品の熟読をおこなっていきたい。特に『ハムレット』の作品は私にとって哲学上の大問題をあつかっているので原書といっしょに読んでいきたい。
 私の映画の手法は黒澤明監督と小津安二郎監督の手法を組み合わせたものだ。私の映画の中の親鸞は生き生きしているが、周りの人々は淡々としている。吉川英治の『親鸞』を書き写していくあいだにわかってくることだとおもう。親鸞のことを良く知るために『教行信証』を音読することにした。そこから得られることは少なくないと感じたためだ。カメラに関しては叔父と相談しておくことにする。この 3年か4年かかるとおもわれる出来上がった映画が大谷大学のひとつの花になればとかんがえている。
 Kはそのことに賛成してくれた。ただ脚本を書くときには私にも手伝ってくれと言っていた。私よりも文才があるKにはかなわなかったので、Kにまかせることにした。
 映画のタイトルはSHINRANともうきまっている。そして、『バガボンド』と『るろうに剣心』の抜刀術について知りたいことがあるので、私は叔父の国語の恩師で剣術の達人にいろいろと取材のために家に出向いて剣術の稽古をつけさせてもらうことにする。
私は『教行信証』を音読していた。そして『バガボンド』と『るろうに剣心』の絵を模写していた。私は『教行信証』の教えを剣に託してみたいと考えた。シェイクスピアの『ハムレット』のなかには剣を交えるシーンが登場する。そのシーンを利用して居合道もしく抜刀術の立ち合いができないだろうか、と考えた。それには『教行信証』を音読し、親鸞の教えを血肉化しなければならない。大谷大学に来年の3月頃に復学するまでに『教行信証』の血肉化を行っていこう。また、親鸞の人間像に肉薄するために吉川英治の『親鸞』シリーズもあわせて音読していこう。物語としては吉川英治が描いた小説をベースに映画は進行していく。しかし、「戦う親鸞」として描いていこうと考えている。教えを広めるために隠し剣をもっていく親鸞。タルムードと同等の価値を持つ親鸞の書き残した『教行信証』ができあがるまでのいきさつも描いて行きたい。
 Kはそのころイギリスのケンブリッジ大学で古典研究員をとして働いていた。文通では私の考えを大喜びしてくれた。Kも大谷大学出身なのだ。Kは日本の映画が好きで小津安次郎や黒澤明監督作品を良く観ていた。イギリスに渡ってから4カ月ともなると慣れたようだった。