Kの物語⑥ 

 Kは古典ギリシア語を勉強するようになった。なんでも田中美知太郎先生のようになりたいそうだ。私もそれにつられて古典ギリシア語の勉強をするようになった。Kはイギリスのケンブリッジ大学に留学したいらしくケンブリッジ英検を受けるとか言っていたが、私は「プラトンの全作品を読破する」という目標があったのでそれにはのる気にはならなかった。しかし、私は「ソクラテスの徳概念」を考察していきたいのでソクラテスが初めて徳概念にふれた『メノン』と教育学でもとりあげられている『プロタゴラス』とソクラテスの死を描いた『パイドン』を入念に精読していった。特に初期対話篇である『メノン』ではういういしいメノンがソクラテスによる問答法によって「徳は教えられるものではない」と結論づけしめくくられる。
 私は大谷大学大学院を卒業したあと京都大学大学院文学科に進んだ。古典ギリシア語の『ソクラテスの弁明』や『メノン』を左手にはギリシア語、右手には英語が書かれていた原書の講読は文法が間違えないかひやひやし、同時に新鮮だった。しかしKはイギリスのケンブリッジ大学の古典研究員として呼ばれて日本にいなかったので少しさびしかった。
古典ギリシアの勉強は適当なもので田中美知太郎、松平千秋の『ギリシア語入門』の変化表と索引の単語をノートに筆写する、という勉強法だった。動詞の変化表が沢山でてくるので四苦八苦した。
 私は現在『ソクラテスの弁明』と『饗宴』を精読している。どちらとも「徳」に関わったり、「恋(エロース)」に関わったりする書物なのでじっくりと味わいたいと思う。また、アリストテレスに関しても「徳」について考察しているのでじっくりと精読していきたい。プラトンアリストテレスに大きな影響を与えたためだ。それは『形而上学』や『ニコマコス倫理学』も大きくあらわれている。
 私は研究者になりたいというよりもむしろ古代哲学が好きという気持ちの方が強い。その気持ちの強さが少しでも社会に出るための後押しになれば、と考えている。そのためにもソクラテスの言動を書きとめたプラトンのように文筆業や倫理の先生になりたいとおもっている(次回は『ソクラテスの弁明』、『饗宴/パイドン』を読んでみて思うところを記すことにする。なお、筆者の叔父はコメント欄にコメントよろしくお願いします)。