『小説家をめぐる冒険』『エッセイを書くこと』

 僕はエッセイを書いていた。ジャズを聴きながら。難しく考えることは何もない。フリージャズのように即興的に文章を書いていけばよいのだ。エッセイの内容は「現代音楽について」だった。すいよせられるように文章が浮かんできた。もともと僕はクラシック音楽が好きでバッハやベートーヴェンを聴いていたが、Kのすすめでジャズも聴くようになっていった。元来、僕もヴァイオリンを弾いていたので、フリージャズという難物を聴きこめるようになった。
 Kは作曲家だった。主としてジャズの作曲をしていた。「ジャズの作曲はクラシックよりも難しいかもしれない」とかつてKは僕に語ったことがある。ジャズにはクラシック音楽にはない即興性があるためだろう、と僕ははやくもわかった気がしたが、どうやらそうでもないらしい。Kは「きまりきったパート」をどうやってジャズに変えていくのかが一番難しいことなんだ、とあとから語ってくれた。もちろんKもベートーヴェンやバッハやモーツァルトを聴くことが好きだったので、Kとは趣味があい、何時間でも語り合うことができた。