『小説家をめぐる冒険』『僕とK』

 僕は小説家で長編小説を書いているところだ。人物描写を細かく描ききっていくことが重要なことだ。雨の様子をICレコーダーに記録したりKという友人と話し合ったりした。Kと話をすることはたいていは文学の話でカフカ村上春樹の長編小説について話すことが多かった。
 僕は鬱病で布団のなかでうずくまることが多かったが、小説だけは書くことができた。僕は純文学しか書くことができなかった。黒のボールペンでノートに「ひっかく」ように書いていった。暇なときはクラシック音楽やジャズを聴くようにしていた。そして、ICレコーダーで記録したものは小説を書きながら聴いていた。
 「世界のなかの深み」がわかるような気がしたからだ。Kはカフカの作品を研究していた。Kはまた詩を書くこともできた。Kの詩は風景を事細かに描写したものであり、人気があった。僕は家族から「なまけもの」のレッテルを貼られていた。Kは大切な友人、親友ともいえる存在だった。Kもまた「なまけもの」と僕に言ったことがあるが、おそらく皮肉だろう。
 僕は人間の深層心理、世界の深みを書くことが好きだった。長編小説はマラソンと思われるが、実は短距離走つなげたものに近い。Kもそのことを知っていた。Kはチェコ語とドイツ語を話し、書くことができた。それは詩にもあらわれれている。
 鬱病の僕は早朝か夜に2時間づつ執筆活動をつづけていた。僕は元来、ミステリー作家だったので書くのが疲れてくると「シャーロック・ホームズシリーズ」を読んだりした。このことは精神の慰めとしてよい効果をもたらした。
 Kはアパートに住んでいた。僕より3倍リッチなアパートだった。Kの妻はロシア語の通訳をやっていた。Kはお酒が好きでウォトカやブランデーをよく飲んでいた。Kはロシア語話すことができなかったので妻との仲は上手くいっていた。
 Kの家のなかではいつも音楽が流れていた。その音楽を聴くために僕はKのアパートにいりびたっていた。