『小説家をめぐる冒険』 『ロシアの作曲家』

 山田は作曲家のロストロ・ボービッチと仕事仲間だった。ロストロ・ボービッチは指揮をすることができ、ベルリン・フィルにも招かれたこともあった。山田はロストロ・ボービッチから文学のことやスパイのことを多く学んだ。ロストロ・ボービッチはパスタが好きでよくロシアにあるパスタ料理店に行き、濃いコーヒーとぺペロンチーノを注文した。
「ロシア語を勉強する気はないのかね?」
「僕は古典ギリシア語を学びたいんです。ロシア語はゆっくり着実に学んでいくつもりです」
「そうか、君は古典ギリシア語を学びたいのか。僕も大学時代に古典ギリシア語を学んだことがあるんだ」
 ロシアでコンサートがひらかれると、山田が指揮したロストロ・ボービッチの作曲した交響曲がコンサートホールに響きわたった。その音楽は荘厳で魂の内側から湧きたつ音楽だった。
 山田はロシア語を学びなおすことにした。本屋に行き、ロシア語の初歩の語学書を買ってひとりで勉強することにした。はじめは文法が難しく、古典ギリシア語と同様に投げ出したい気持ちにかられたが、なんとか継続することができた。 †