トム・ウェイツとドボルザーク
最近、ロックを聴きはじめた。ロックといってもヘビーなものではない。暗闇に光を灯すようなトム・ウェイツのロックである。トム・ウェイツのサウンドはドボルザークとベートーヴェンの思弁をとけあわせたものに近いのかもしれない。孤高でまあるくビートルズとは一線を画すサウンドである。ドボルザークも民謡をあつめることにはまっていたが、トム・ウェイツもいろいろな口承文芸や井戸端会議をあつめていたのだろう。
ドボルザークは交響曲第9番<新世界より>で文字どおりジャズやこれまでになかった音楽の世界をおしひろげていった。もちろん交響曲第8番の詩的抒情性も無視することはできない。日常の世界にこそ世界がひろがっていくことを私はトム・ウェイツとドボルザークから学んだ。
ベートーヴェンはその神髄を交響曲第5番<運命>のなかでおしげもなく披露している。交響曲第5番はその主張低音を始めの第2楽章からただよわせている。このことは見逃すことはできまい。ロックな硬さはカラヤン指揮の作品から漂っている。そこからトム・ウェイツがロックのなかのロックという所以がある。